2013年7月12日金曜日

トラをどう捉“トラ”えるべきか 『ライフ・オブ・パイ』

2013年上半期を代表する一作である『ライフ・オブ・パイ~トラと漂流した227日~』を見ました。
タイトルはただの悪ふざけで、意味はありません。


予告編等から想像していた内容を大きく裏切る内容でした。

最後のクライマックスで映画の中での大きなシフトが起こるわけですが、残念ながらそこに至るまでのシーンにおいて自分としては充分に入り込めず、結論的にはイマイチ、という印象です。

まずぼやかして感想を述べると、個人的には予告編に提示されていた、非常にファンタジックなシーン、スリリングな漂流の日々よりも、漂流から生還したパイが成長し、中年になり、自分の経験を挫折した小説家に語るシークエンスの方がよほどおもしろく感じました。

第一の理由は、ファンタジックでスリリングな漂流のシークエンスに残念ながらほとんどハマれませんでした。大洋のどまんなかなのに、なぜか波は立たず鏡のように美しかったり、夜光虫らしき発光性生物をまとったクジラが大ジャンプしたり、仏様のような寝姿をした島に辿り着いたり、とあまりにもファンタジー過ぎて、当初のイメージと乖離が大きいためだと思います。
画像は拝借してきました


最初からファンタジーだと思って見てれば違ったかもしれません。

第二の理由は、たぶん俳優の力量。中年パイを演じた俳優さんは実にたんたんと、でも魅力的な声と間で引き込まれるものがありました。

主にこのような2つの理由から、青年パイの漂流譚より、当時を回想している中年パイのシークエンスがおもしろいと感じています。


さて、この映画。最後を迎えてみればそれほど難解な映画ではありません。
この映画の中で事実として確認されたのは、パイという青年が家族、動物たちを乗せた船でカナダに渡る途中で嵐にあい、船が沈没し、長期に渡り漂流して後、生還したということです。
そして、生還したのは彼一人で、漂流している間に何があったのかは誰も証明のしようがない、という状況です。

そして、中年になったパイから語られた、「漂流している間に何があったのか」は、2つのストーリーが語れることになりました。

そのひとつが、本映画の中核をなし、自分がハマれなかった実にファンタジックな、青年パイとベンガルトラとの漂流譚。

そして、もうひとつが最後のクライマックスでほんの数分で示される、現実的な漂流譚。


ファンタジックな漂流譚

「パイの方舟」に、足を骨折したシマウマ、オランウータン、ハイエナ、トラが乗り込むパターン。
結果的に動物たちの中ではトラだけが生き残り、パイとトラとの奇妙な共同漂流生活が始まる。

トラの爪牙から逃れるために、パイは救命胴衣などをつなぎあわせたイカダを作り、避難ボートとして活用し、そもそもの救命艇を母艦としている。
漂流生活の中では、大海のどまんなかにもかかわらずなぜか水面はさざ波ひとつ立たず、鏡のように美しかったり、発光生物をまとったクジラがジャンプをしたり、食料に困ったらトビウオの群れが飛んできたり、トビウオを追っていたカツオらしき巨大魚が救命艇に突撃してきたり、と困難と奇跡の連続。
そんな中で食料が減り始めた時、トラ(名前はリチャード・パーカー)は魚を獲ろうと海にジャンプ。
その隙にパイは救命艇に戻り、トラを船に戻れなくするも、トラとの複雑奇妙な共同生活こそが、漂流生活のハリになっていたと悟り助ける。

で、しまいにはミーアキャットだらけの島にたどり着き、急速と食料を得て安心したのもつかの間、その島の真水の池は夜になると化学変化で酸化し、生きるものを溶かしてしまう、生き物を食べる島だと気づき、トラとともに脱出。
最後にはメキシコ岸にたどり着き、生還。

詳しいあらすじや解説は↓などがいいかもしれません。トラの名前である「リチャード・パーカー」も意味深な名前のようです。

ライフ・オブ・パイ考察と感想~作品に込められた隠喩の数々~【映画レビュー】

今生の別れ「ライフ・オブ・パイ」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー


えーっとですね。
自分は、この映画をある程度リアルな感じなのかと思いながら見始めたので、このようにざっくり書いたあらすじについていけませんでした、ハイ。

その前のインドで過ごした少年時代なんかはけっこう面白かったんですよ。でも、漂流生活がスタートした途端に「???」でした。


現実的な漂流譚

メキシコにたどり着き生還した青年パイのもとに、沈没した船の船籍国である日本の保険会社から調査員が2人、事情聴取に来ます。
そこでは、前述のファンタジックな漂流譚は「非現実的」で受け入れられませんでしたので、青年パイは現実的な漂流譚として、まったく別の話を語りだす。
そこには、トラも、ハイエナもシマウマもオランウータンも出てこない。

第二の漂流譚に出てくる登場人物は、青年パイに加えて、足の折れた仏教徒の船員、意地の悪いコック、パイの母親。

そこでは、コックが足の折れた船員は足を切断しなければ助からない、と言うので切断したが死亡した。さらにコックはその足を食べ始めたため、パイの母親は激怒しコックをぶった。すると翌日、コックは母親を殺害したので、パイはコックを殺害した。という厳しくも現実にあり得そうな漂流譚。


事実はどこに?

映画の中では、この2つのストーリーが示されますが、多くの人がそうであるように、自分も後者の現実的な漂流譚がおそらくは事実だったのだろうと思います。

が、ファンタジックなストーリーがまるっきり嘘か?と言われるとそうでもないような気がするのがこの映画の特徴かもしれません。

多くのレビューサイトで触れられているようですけど、振り返ってみると、ファンタジックな漂流譚は青年パイの心象風景だったり、信仰の世界であるのかもしれません。
このへんは宗教観があまりに違う自分では理解しきれないところがあります。

さらに、青年パイは宗教を信仰し理性的であろうとするパイを表し、トラは生き残るための本能的なパイを表している、という分析がありましたが、なるほどと思います。

ただ、そうだとするとメキシコ漂着後にトラ(本能的なパイ)が青年パイ(理性的なパイ)に何の友情も愛情も表現せずに消えていったことと、それを青年パイは心底悔しがって泣いていたことはどう解釈すれば良いのでしょうか。

理性的パイは本能的パイを漂流の末に“飼い馴らせた”と思っていたのに、実際には危機感が去ったから生存本能が消え去ったに過ぎない、ということを自覚したということなのか。
このへんはよくわからないし、ソレを考えるのがこの映画の楽しみ方なのかもしれません。



いずれにしても、この映画は個人的には「つまらない」わけではなくて、ハマれなかった、というものです。
最後の大どんでん返しも、せっかく用意されているのに自分はその前段でハマれなかったので、大どんでん返しのギャップも少々薄れてしまった。
『ユージュアル・サスペクツ』や『スティング』は最高に楽しめたんですけどね。。。

あ、そうそう。ハマれなかった大きな理由がもうひとつ。
レンタルしてきたDVDの調子が悪いのか、全編をとおして2~3箇所で再生不可な場所があり、何度も何度も再生と停止を繰り返す作業が発生したので、そのたびに“リアル”に引き戻された、という事情もあるかと思います。これが一番腹がたった!


見れなかった主なシーン。

  • オランウータンがハイエナに噛み付かれた直後から数分(つまり、漂流後のトラの最初の見せ場)
  • 後半、大嵐に見まわれパイもトラも“死”を覚悟した直後~人喰い島を発見し上陸するまでの数分(つまり、死の覚悟からの奇跡との邂逅)

あと一箇所くらいあった気がするけど、思い出せない。
DVDの調子が悪いので見返す気にもならない。

こうしてみると、やっぱり肝心な場面(本能的なパイの登場と、死直前からの奇跡の回復)が吹っ飛んでるから、今回書いたこの感想は意味があるのか自信がない。

映像はむちゃくちゃ綺麗です。BDで見てみたいくらい。

【参考】

映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」感想

ライフ・オブ・パイ(ネタバレ)/神の愛は森に隠れてる

ミニョネット号事件(Wikipedia:リチャード・パーカーのネタ元?)



ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2013-06-05)
売り上げランキング: 661

0 件のコメント:

コメントを投稿