2013年7月28日日曜日

アクションで味付けされた精神世界をみる『ザ・ウォーカー』

また遊んでる場合じゃないのに、返却期間もあって映画を見てしまった。

今回見たのは『ザ・ウォーカー』、デンゼル・ワシントン主演、共演にはゲイリー・オールドマン。

これを借りてきた理由は、別のDVDの中に予告編があって、その映像がものすごくかっこよかったから。


で、実際に見てみた感想なんですが、映像はたしかにかっこいい。
モノクロームとセピアの中間のような色彩で世界観を表現している。デンゼルのアクション・シーンは必見レベルに流麗で痺れる。
ちなみに、序盤にて受ける世界観に対する印象は「北斗の拳を実写化するとこんな感じかも」です。

世界観をまとめると
  • “宗教戦争”による世界の荒廃
  • “戦争”によって、空に「穴」があいたため、屋外ではサングラスが必須
  • “戦争”前の文化を知る「中高年」は少数、若者が大多数
  • 文化、文明は失われており、若者の識字率はちょ~低い
  • 経済は物々交換経済
  • そんな中、デンゼル演じるイーライは、“本”を手に、30年間ひたすら「西方」を目指して歩く
  • ゲイリー演じるカーネギーは、荒くれ者をまとめあげ、“まち”を復興し、支配者に
  • カーネギーは支配力強化のために“本”を探し求めている


デンゼル演じるイーライについてくるソラーラを演じた女優さんは可愛らしいんだけど芯の強さを感じさせるいい女優さんでした。

じゃあ、大満足かというと、実はそうではない。

その理由は、予告編から受けた印象、期待と実際の映画の内容に一定レベルでギャップがあったため。

端的に言えば、この映画はクォリティの高いアクション・シーンはあるが、それは添え物であって、本筋は“イーライの本(the book of ELI)”をめぐる精神世界を柱としたストーリーで成り立っている。

「精神世界」というと違和感、嫌悪感を覚える人もいるかもしれない。実際とあるシーンでは、自分も「ちょっと説教臭いな」と感じなくはなかった。でも、全体を通して振り返ると、そうした印象を受けるのはごく一部でストーリーとしては、穏やかな流れの中で時に激流を織り交ぜながらも、着地点に向かって淡々と流れている。

結果的に楽しめたからまだいいけど、予告編と本編とのギャップが大きすぎるのはちょっといただけないなー。ミスディレクションというよりも、単に興行成績のため、という気がします。

イーライは言ってみれば「宗教戦争」後のキリストである、と受け取りました。受難と奇蹟。使命と啓示。そういったものをイーライは追体験しているように見えます。
そして、最後には“本”の内容をイーライが口伝で伝えるわけで、“戦”後ホーリー・バイブルはイーライがいなければなかったわけです。

おもしろいのは、イーライの前職?がKマート店員だということ。
詳しくは知らないけど、たぶんKマート店員ということは、社会的階層が比較的低い人だったということを示してるんでしょ。 
さらに言えば、本編中ではイーライ以外の黒人が出てこない(ように思える)。

カーネギーが支配する町に来た時に奇異の目で見られたのは、「町の人間じゃないから」だけではないようにも感じました。

そして最後に明かされるもうひとつの特徴。


他方、ゲイリー・オールドマン演じるカーネギー。この名前を聞いてまず思い出すのは、デール・カーネギー。『人を動かす』の著者としても知られています。

彼はイーライが持つ本を利用して、愚かな民の進むべき道を指し示し、自ら支配者となることを目指しています。
この映画について、いくつかのレビューを読んでみたのですが、「キリスト教万歳」だとか「宗教的プロパガンダ」だという指摘が多いです。
しかし、自分が受けた印象はむしろ、カーネギーの言葉としてとても皮肉な“宗教の悪用の効用と現実”を発しており、決して「万歳」ではないと感じました。

しかも、宗教に振り回された結果、それを手中に収めながらも読み解けない現実。


なお、カーネギーが探している“本”を、イーライが持っていると気づくシーン。何気ない、よくあるシーンですが、好きです。
だって、あんなシーンこれまで多くの映画で普通に展開されてきたシーンなわけで、それが意味あるシーンだなんて思わないですよ。
その時点で、カーネギーは自分が探している“本”、実は“本”は象徴であって、実態は宗教なんですが、それを知る人間の存在を認知することになるのです。

映画最後で、まさかそういうことだったのか、とイーライの秘密が明かされるわけですが、だから誰にも触らせなかったし、感覚鋭敏だったし、ソラーラのお母さんにも優しかったわけだ。

アクション映画だと思わず、ストーリーを楽しむ映画だと思ってみるといいと思います。


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